要旨 鳥浜貝塚における縄文時代草創期〜前期の植物利用を明らかにするために,多くの層準で放射性炭素年代が得られた堆積物試料を用いて花粉分析と大型植物化石分析から植生分布を復元した。鳥浜貝塚の周辺の植生は6つの植生期に区分された。下位よりコナラ亜属とブナを主とする落葉広葉樹林期(約14,000~13,200
cal BP),ブナ林にスギが混生する時期(約11,600 cal BP),コナラ亜属林にクリが多数混生する時期(約11,500~8700 cal
BP),スギ林の優占とエノキ属‐ムクノキ属樹木の拡大期(約8700~7100 cal BP),アカガシ亜属樹木の拡大期(約7100~5700
cal BP),クリが優勢な時期(5700 cal BP 以降)である。クリは草創期末以降に利用され,早期前葉には周辺丘陵にクリを多く混生する落葉広葉樹林が形成された。ウルシ花粉は草創期の約13,200
cal BP,アサ花粉は約10,500 cal BPの早期前葉から出現し,それ以降に貝塚周辺に継続的に存在していた可能性がある。また,鳥浜貝塚周辺では,草創期~前期を通して有用植物のカヤやオニグルミ,ヒシ属などの利用が,早期前葉以降にはクリやウルシ,アサの利用が推測される。鳥浜貝塚周辺では早期末以降には照葉樹林が発達したことも加わって,有用植物の利用は時間の経過とともに多様になったと考えられる。