クリ花粉の散布

クリ花粉の散布

クリ花粉の散布と三内丸山遺跡周辺における縄文時代のクリ林の分布状況
Dispersal of Castanea crenatapollen and distribution of C. crenata forest around the Sannai-maruyama site during the Jomon period.
吉川昌伸.2011. 植生史研究 第18巻2号:p.65-76.

結論:クリ花粉は樹冠縁から約20mの範囲で大半が落下する。

要 旨                                           縄文時代のクリ林を復元するための基礎資料を得ることを目的として,クリ林における表層花粉と空中浮遊花粉からクリ花粉の飛散を検討した。表層花粉群におけるクリの花粉比率は,クリ林縁から約25m以上内部では60%以上,クリ林内で30%以上,クリ林から離れると急減し樹冠縁から約20mで5%,約200mで1%以下,クリ個体が疎らに分布する地点では2.5~5%であった。クリ林内でも空中浮遊クリ花粉は少なく,周辺に分布する風媒花のコナラ亜属が多く飛散し,クリ花粉は自然落下や雨水による落下により林床に多く堆積していた。表層花粉と空中浮遊花粉の分析からクリ花粉が極めて飛散し難いことが明らかになった。クリ花粉の飛散状況に基づいて,花粉化石群の組成の時間的,空間的検討により三内丸山遺跡周辺におけるクリの分布状況の復元を試みた。その結果,調査した多くの地点の周囲25m以上の範囲までクリ純林が形成されていたことが明らかになった。縄文時代前期末から縄文中期には三内丸山遺跡周辺のほとんどの台地斜面から台地縁にクリ純林が広がっていたことが推定される。

キーワード:空中浮遊花粉スペクトル,クリ花粉の散布,クリ林,三内丸山遺跡,表層花粉スペクトル


クリは虫媒・風媒?それとも雨媒?

 クリの受粉は農学では風媒とされ花粉は風により遠くまで飛散(100m以上)するが実用的には10m前後で,一部には虫媒による受粉もかなりの比率を占めることが推測されている(壽1989など)。一方で植物学では虫媒とされている(佐竹ほか編,1989)。

 クリは、細長い穂状の雄花序の基部に1~3個の雌花序が着生している。開花時に独特の生臭い香りを発散・放出して花粉媒介昆虫を誘うが、花蜜を分泌するのは雄花のみで、雌花には分泌器官がない。花序を観察すると、訪花昆虫は雄花序に滞在し、ごくまれに雌花で散見されるだけのようです。このため、香りを発散・放出しているものの、風媒によって自然受粉していると考えられている(谷口,2009)。しかしながら、コナラやハンノキのような典型的な風媒花に比べ、クリ花粉の飛散距離は極めて短く(吉川,2011)、風媒花とするのは疑問である。

 トチノキと、ウルシ、アサなど他の植物の飛散距離の調査も行っており、クリの調査だけ空中花粉トラップの容器(吉川(2011)を参照)に水が多く溜まっていました。クリ花粉の飛散調査を行った山形県小国町のクリ林では、少なくとも開花期間の雨の日には風が強い傾向があり、そのためトラップにも雨水が多く溜まっていたと考えられます。そうであればクリの受粉の一部は雨水により飛ばされた花粉により受粉していることもあるのでは?。

 「雨栗日柿」ということわざがあり、雨の多い年はクリがよくでき、日照りの年はカキがよくとれるといわれています。クリは日照りが続くと実が熟す前に落下し、逆に柿は雨が多いと病気や害虫が多くなるようです。実は果実の形成のみでなく、受粉も雨と関係しているのかもしれません。

引用文献                                           壽 和夫.1989.クリ.「植物遺伝資源集成 第1巻」(松尾孝嶺 監),1174-1181. 講談社,東京. 佐竹義輔・原 寛・亘理俊次・冨成忠夫,編.1989. 日本の野生植物 木本Ⅰ.321pp.平凡社,東京.  谷口真吾.2009.クリ.「日本樹木誌1」(日本樹木誌編集委員会 編):243-274

縄文時代のクリ林とその形成